そろそろワインに疲れませんか?

そろそろワインに疲れませんか?



 KHNさんのメールマガジンが終了するとの事で、長く続いたこのコラムも、とりあえず一旦は終了となりそうです。
 このブログ自体が続くかどうかは筆者の根気次第と言うところですが、今回はとりあえずの最終回と言うことで、総まとめにしたいと思います。
 ワインには色々な楽しさがあり、飲む楽しみ、酔う楽しみ、知る楽しみ、集める楽しみ。それこそ計り知れない楽しさがあります。どの楽しみ方も肯定されるべきであり、どの楽しみ方も否定されるべきではありません。
 筆者自身は、ワインはあくまで酒。あくまで飲み物だと言う観点から、このコラムを書き続けてきました。
 しかし、それも筆者の考え方であり、また別の観点があっても、それはそれで正しい事なのだと思います。
 ただ、忘れないで欲しいのは、それが「楽しさ」に基づくものであって欲しいと言うこと。
 ワインの事をもっともっと知りたいと願うことは大事なことです。しかし、「知って楽しい」と言うことを忘れないで欲しいのです。
 ワインをコレクトしたい気持ちも重要です。そして、「集めて楽しい」ことは忘れないで欲しいのです。
 筆者はワインに携わって15年以上経ちますが、仕事にしているためか、時折、その楽しさを忘れそうになる事がありますし、また、その楽しさを見失ってしまった人にも出会ってしまいます。
 皆さんは、ワインに疲れてはいませんか?
 その時はどうか、ワインが「楽しい」趣味であることを思い出して欲しいのです。
 最初にワインに興味を持った時の喜び。
 ちょっとワインに疲れたな、と思ったら、ふと立ち返って、ワインの楽しさを思い出してあげてください。







本当に美味しいワイン



 世の中には、星の数ほどのワインがあります。生産者、銘柄、年代。それは絶対に一人の人間が一生で飲み切ることの出来ない膨大な量です。
 そして、その中には、およそ考えられないほどの高価なワインがあります。代表格で言うならば、ロマネ・コンティでしょうか。
 筆者は色々な人から「高いワインは本当に美味しいのか?」という質問を受けます。
 これに対する答えは、概ね決まっています。

 「最高のワインが、最高の状態であるならば、間違いなく美味しい」

 無論、絶対ではありません。
 日本人の多くは米を美味しいと思いますし、人間のほとんどは、花の香りを心地良いと感じます。
 美味しさに絶対はありません。ですが、それに近い根源的な美味しさは存在します。前述の例で言うならば、花の香りを苦手とする人もいます。あるいはアレルギーという体質的な問題かも知れません。
 しかし、ほとんどの人間は花の香りが良い香りだと思うように、素晴らしいワインは、あまねくほぼ全ての人間が美味しいと感じるからこそ、高価になっていくのです。
 そこに、大枚をはたく必要があるかどうかは別の話になりますが、それは間違いのない価値だと言えるでしょう。
 ただ、前述のように「最高の状態」である事が必要です。
 保存が悪くて傷んでいる。熟成が進んでいない。あるいは、逆に枯れているなど、状態の良し悪しで味は損なわれます。
 また厄介なことに、これを確実に見分ける手段は、ほとんどありません。
 ですが、だからと言ってワインに絶望しないでください。
 いつか、その最高の状態の最高のワインに巡り合えるかも知れません。
 書き続けたこのコラムが、その手助けになれば幸いです。

知っておくべきワイン用語・蔵出し


 まず、このコラムの読者の皆様に、先に謝っておく事があります。2回前の配信に書かれた蒸留酒「マール」についてですが、これは「マール」の発音が正しいそうです。「マルク」と教えてくれたフランス人の言語学者から、「すみません。あれは私の土地の方言でした。マールで正解です」と訂正されてしまいました。そんな訳で、誤報してしまった事をお詫びするとともに、「マール」と訂正させていただきます。



 【蔵出し】 重要度 ★★★★



 日本酒でもよく使われる、この蔵出しと言う言葉。ワインではシャトー元出し、ドメーヌ元出し、イー・エックス・セラーなどとも呼ばれます。
 辞書によりますと「蔵出し」は、味噌や酒などを醗酵蔵から出してすぐの状態を意味するようです。なるほど、おおく作りたてからの経過時間が問われる日本酒の場合、蔵出しは鮮度を示す度合い。
 しかし、ワインの場合は意味が異なります。ワインは醸造元にて、安全に保管・熟成していた事、また、経由する人の手が最小数であった事を示します。フレッシュさを重要視する日本酒と熟成が必要となるワインとの違いですね。
 もっとも、近頃の日本酒には寝かせて飲む古酒などもありますから、こちらはワインと同じ意味になりそうですね。






 知っておくべきワイン用語・樽熟、瓶熟





 ワインは熟成する、寝かせる、などと言いますが、同じ酒でも、ウィスキなどの熟成は樽の状態で行われます。
 ワインの場合はそのほとんどが瓶に入った状態で熟成されます。さて、この違いは何でしょう。



 【樽熟・瓶熟】 重要度 ★★★



 ウィスキやブランデーは蒸留酒であり、アルコール度数は概ね40%を超えます。対してワインはおよそ12.5%と低め。
 つまり、ウィスキなどは瓶に詰めた状態ではほとんど熟成しません。したがって、樽の中で良い時期まで寝かせ、そのままを瓶に封じ込める訳ですね。逆にワインは、樽の中である程度まで形作りをします。これが樽熟と呼ばれます。つまり、瓶に詰めた状態から熟成をスタートする訳です。こちらが瓶熟。
 樽熟12ヶ月、などと言う言葉がありますが、この期間が長いほど、比較的、瓶熟が短くても飲める割合が高くなる程度の基準でしかありません。
 ワインにとって重要なのは、間違いなく瓶での熟成期間です。
 もっとも、これも旬を過ぎると枯れてしまいますから、そこもワインの難しい所ですが。

知っておきべきワイン用語・フィロキセラ

知っておくべきワイン用語・フィロキセラ


 世の中は弱肉強食と言いますが、生態系を見ていると世界の奥深さに触れる事が出来ます。そして弱肉強食とは言うものの、万物の長に立てる強者の存在は少なく、多くは相応の天敵が存在します。
 不思議に思うかも知れませんが、なんとワインにも、天敵は存在するのです。


 【フィロキセラ】 重要度 ★★★★


 フィロキセラとは葡萄の樹に宿る寄生虫寄生虫というと何だか恐ろしい気がしますが、ブドウネアブラムシ。すなわち、葡萄の根に着くアブラムシです。家庭菜園などをされている方には、厄介なアブラムシですが、厄介というだけで致命的ではありません。
 そもそも寄生生物には2種類あり、宿主と共生するタイプと宿主を食い殺すタイプ。なんと、フィロキセラは後者に当たり、葡萄の根を食い荒らし、枯死させてしまう厄介者。天敵という言葉に相応しく、これによってヨーロッパの葡萄が全滅した歴史さえあります。
 ワイン愛好者にとっては、人間より上にワインがある訳ですから、それを滅ぼすフィロキセラは、まさにワイン愛好者の天敵と呼べるかも知れませんね。




知っておくべきワイン用語・薔薇


 ワインを表現する言葉の中に、花の名前があります。スミレやバラなどがその代表でしょうか。
 無論、比喩表現ですから、火打石や腐葉土と言うよりは、理解されやすく、また聞こえも良いでしょう。また、品種が分化しやすい点でも、ブドウとバラには近しいものがあります。
 しかし、それ以外にもワインとバラには、知られざる深い関係があるのです。


 【薔薇】 重要度 ★★


 ワイナリーのブドウ畑を見ていると、うねのひとつひとつに必ずと言っていいほど、一緒に薔薇が植えられています。
 これは一体何なのか。見た目が綺麗だから? いいえ、違います。なんと、バラはセンサーなのです。
 バラは病気にかかりやすく繊細で、異常があると、見た目にわかりやすい点が特徴。
 つまり、ブドウ畑に病気が忍び込んでくると、いちはやくバラが反応し、畑の異常を知らせてくれるのです。まさにセンサーであり、ワインの守護者でもあります。
 なるほどしかし、それだけ繊細だと、薔薇園がもてはやされる理由も、薔薇園の管理者の苦労も見えてきそうな気がしますね。

知っておくべきワイン用語・ヴァンドリクール

知っておくべきワイン用語・ヴァンドリクール

 ワイン用語を説明する時、非常に困るのが、広義で説明すべきか、狭義で説明すべきか、という点です。
 大雑把に言えばこのカテゴリで良いのだけれど、正確に言うと別のカテゴリになってしまう。そんな説明が多すぎる事です。

 【ヴァンドリクール】 重要度 ★

 ワインとは、葡萄(ないしは果実)を醗酵させて作ったお酒の事です。このヴァン・ド・リクールとは、葡萄ジュースにブランデーを添加して醗酵させずにお酒にしたもの。
 ブランデーも葡萄の蒸留酒ですから、いわば100%葡萄なのですが、自身を醗酵させていないため、狭義ではワインに含まれません。
 名前が示す通り、製法としては完全にリキュールのそれと同じです。ですが、何故か一般的にはワインにカテゴライズされる事がほとんど。製品としてはリキュールですが、その場で作ればカクテルとも言えます。
 なお、梅酒も英語ではプラム・ワインと呼ばれますが、製法的にはリキュールですね。


知っておくべきワイン用語・マール

 何故か完全に間違っているのに、和製語として日本に定着してしまっている言葉が存在します。「ナイーブ」などがそれに当てはまるでしょうか。(ヨーロッパでは「幼稚」「鈍感」「バカ正直」などの意味だそうです)
 また、発音が間違ったまま日本人が喋りやすいように定着してしまった言葉などもあります。ファーストフードやアボガドがそれに該当するでしょうか。(綴りを見れば完全に、ファストフードとアボカドですね)
 今回紹介するのはそんなワイン用語。

 【マール】 重要度 ★★★

 綴りはMARCです。ワインを搾り取った葡萄の絞りカスから、更にそれを醗酵、蒸留して作った、いわば粕取りブランデーのこと。イタリアではグラッパと言い、低価格ブランデーとして親しまれています。
 MARCをフランス語読みだから最後のCは発音しないので、マール、と思っていました。筆者も最近知ったのですが、フランス人に教えてもらったのは「マルク」で、完全にCを発音しています。むしろ「マック」と「マルク」の中間的発音に聞こえました。フランス人曰く、「マールはおかしい、間違いだ」そうです。なお、そのフランス人は言語学者だそうですので、方言だとかいう事はなさそうです。
 しかし、教科書にも「マール」と書かれていますし、筆者も15年来「マール」と記憶していますし、業界関係者も全員「マール」
 なので、真実を知った今でも「日本人的に右へ倣え」で、「マール」と紹介しておきたいと思います。


 

知っておくべきワイン用語・垂直試飲

知っておくべきワイン用語・垂直試飲

 趣味にも色々ありますが、その道には、その道ならではの楽しみ方が存在します。例えば野球では、解説者に文句を言うとか、ラジオ音声を聞きながらTV放映を見るとか、その類でしょうか。
 ワインも本道で言えば飲んで楽しむものですが、それにも一歩先の楽しみ方があります。

 【垂直試飲】 重要度 ★★★★★

 垂直試飲(バーチカル・テイスティング)とは、何年かの異なる生産年度の同じワインを飲み比べること。
 何年もの違う銘柄を集めるのは一苦労ですが、同じ銘柄の年度による違い、そして、熟成の進行度を比べて楽しめます。
 ここで注意してほしいのは、年度によって出来が違うため、そのワインが数年先、同様に熟成するとは限らない点です。一年若いヴィンテージの方が熟成しているケースも少なくありません。もちろん、傾向はうかがえますので、寝かせる期間の参考にもなります。




知っておくべきワイン用語・水平試飲

 筆者はどうにも算数が苦手だったせいか、計算、数字はもちろんのこと、図形にも軽い苦手意識が付きまとっています。おかげで今でも、水平と垂直の区別に戸惑う事があり、いったん漢字になおして「平らな方が水平」と確認することしばしば。

 【水平試飲】 重要度 ★★★★

 垂直試飲が異なる年代の同じワインを飲むのに対し、水平試飲(ホリゾンタル・テイスティング)は、同じテーマの違うワインを比べる飲み方のこと。
 垂直試飲の対義語にされることが多く、概ね同じ年代の異なるワインを飲むことを意味しますが、それだけではあまりにも大雑把なので、基本的に同じ生産地であるとか、同じ生産者、あるいは同じ葡萄品種というテーマを持たせた方が楽しみが広がります。
 もっとも、垂直試飲の場合も「醸造担当者が代がわり」「生産会社が売却されてしまった」なんて事はよくありますけれど。

 一般的な言葉としても使いますが、ワイン用語としては若干だけ違う意味を含む。そんな言葉があるので、時折使い方がややこしくなったりします。


 【アロマ】 重要度 ★★★★


 化粧品やお香でも使われるアロマという言葉。そのまま「香り」を意味します。率直に使っても問題はありませんが、ワイン用語としては「ワイン全体の香り」を指します。
 また、中でも「ぶどうの(品種そのものの)香り」や「ワインの若さ」が占める割合が多く、「アロマが強い」という場合は、イコール「香りが強い」ではなくなるので注意が必要。とは言え、会話の中ではさほど違和感がないので憶えていなくても問題がなかったりもする点が微妙です。
 細かく言うと、第1アロマがこれにあたり、酵母や乳酸菌が生成する香りを第2アロマと呼びます。似た言葉に、ブーケ、フレーヴァーなどがあるので使い分ければ、「通」を装えるかも知れません。





知っておくべきワイン用語・ブーケ

 専門用語の中には、本当に分ける必要があるのか? とか、その違いを明確に出来る人は存在するのか? などと疑問に思える類義語が存在します。科学的な見地で見ると違うのでしょうが、素人にはその違いを判断する事は難しいと言えます。今回紹介するのは、そんな言葉。


 【ブーケ】 重要度 ★★★★


 ワインの香りを示す言葉は本当に沢山あり、代表的な所(しかも香り全体を意味する)だけでも、アロマ、ブーケ、フレーヴァーなど。
 今回はブーケの説明です。
 語源はフランス語の「花束」のブーケから。ブーケは、ワインの熟成によって生まれた香りを指し示し、ぶどう品種そのものの香り(第1アロマ)と、醗酵によって生まれた香り(第2アロマ)に対し、第3アロマとも呼ばれます。わかりやすい日本語としては熟成香。
 ワインに携わる人間は数多くいますが、この1から3までのアロマを、言葉ではなく香りで明確に分類できる人間は何割いるのか、そして、それを言葉で説明できるのか、いささか疑問です。筆者も分類できなくはないのですが、正直に言って明確な線引きは出来ませんし、その違いを言葉に逆転換は出来ません。

知っておくべきワイン用語・DOP

 気がついた時、それまで当たり前のように使っていた言葉がいつの間にやら風化し、新しい言葉にすりかわっている。そんな事はありませんか? 筆者の場合は小型パソコンの名称がラップトップからノートに変わっていた、なんて事が記憶にあります。今回のワイン用語はそんな言葉。

 【DOP】 重要度 ★★★

 昨今の日本でも産地偽装などの問題が起きていますが、イタリアではそれを取り締まる法律として、DOC(Denominazione di Origine Controllata)が定められていました。
 要するにどの土地で作られ、法律の基準を守っているという保証です。まあ、ラテン気質で知られるイタリア人の事ですので、法律自体はフランスのAOCを模倣して作ったといっても過言ではありません。このため、後に生じた矛盾を解消すべく、DOCG、IGTと言った後付けの法律で問題を解決してきました。
 しかし、この後付けに問題があったのか、それとも他の法律との兼ね合いか、近年、DOCとDOCGは新たにDOP(Denominazione di Origine Controllata Protetta)に、IGTはIGPに改められました。
 実際のところ、統制法が保護法と名を改めたぐらいの事で、消費者にはあまり関係のない話なのですが、DOCという言葉が強く浸透しているので参考までに。
 なお、イタリア本国でも「既に印刷しちゃったラベルがあるから、なくなるまでDOCで通すよ」という具合に、DOCとDOPが混在しています。


 知っておくべきワイン用語・キャップシール

 あまりにも日常的に存在している割に、意外と名前が知られていない物ってありませんか? 例えば、パンやお菓子を入れたビニール袋を縛っている「針金」 実際に「ひも」とか「針金」とか「しばるやつ」で通じてしまうので名前が知られにくいのでしょう。ちなみに、その名称は「モール」です。似たところでは通称「ぷちぷち」などもありますね。今回のワイン用語はその類。

 【キャップシール】 重要度 ★★★★

 ワインを外界との接触から守るのは瓶とコルク栓ですが、そのコルクを守っているのが、このキャップシール。もともとは蝋などで封(シール)した事からそう呼ばれます。
 多くの消費者から何らかの尊敬を浴びるコルクに対し、何故かこのキャップシールは尊敬どころか注目も浴びません。名前も意外と知られていません。知らなくても「キャップシール」と言われれば何となく伝わるので問題も起きません。意外と重要な役割があるので、もう少し注目を浴びても罰は当たらないと思います。
 ちなみに、意外と重要な役割とは「コルクを守る役割」の他に「ソムリエがあざやかにキャップシールを切り取る」という技術を見せ付けられる演出に他ないでしょう。